牧丘町巨峰の丘マラソン大会における熱中症予防のとりくみ(氈j

                         平成6年12月

牧丘病院 ◎望月正英     村田暢宏院長

                      (健康運動指導士・薬剤師)(内科医師)

 はじめに;第10回(平成6年)の巨峰の丘マラソン大会では、12人(男性11人、女性1人)もの参加者が熱中症により、牧丘病院に収容された。これは過去最高であり、完走者2227人の0.53%と通常のマラソン大会での熱中症患者の発生率0.1%に比べ異常な高率であった。

収容された患者の熱中症の症状から見た内訳は

  軽症  8人    軽度の痙攣・脱水症状・意識障害なし・入院せず帰宅

  中等症 2人(女1)腎障害あり・肝障害あり・意識障害あり・1日入院

  重症  2人    多臓器不全あり・意識障害あり・1日以上入院

であった。

なかでも、重症のうち1名は、腎障害・肝障害・意識障害・汎発性血液凝固症候群を呈し、厳重な全身管理が必要となり、血液透析も必要とされたため、翌日北里大学附属病院へ転院した。幸いにも一命をとりとめ、45日間の入院後に社会復帰している。もう一人の重症者は腎障害・肝障害・意識障害が認められたが、次第に快復し7日後には退院可能となった。どちらの症例においても一つ間違えれば、死亡しかねない危険な状態であった。

 我々は、今後巨峰の丘マラソン大会において、このような熱中症患者を発生させないための予防方法の確立を目的にアンケ−ト調査を行った。

 このことから、熱中症予防のとりくみについて一応の成果があったので報告する。

 

@アンケ−ト調査の方法

 アンケ−ト対象者は、

  病院群   熱中症で倒れ、牧丘病院に収容された参加者の12名

  正常群   熱中症を起こさなかった参加者から性別、年令を一致させて無作為に抽出した45名

 回答率は、病院群83.3%(10/12)  正常群55.6%(25/45)であった。

アンケ−ト調査の内容です

 

Aアンケ−ト調査の結果

病院群
正常群
  男 女 比 
12.0
7.33
平 均 年 令 
38.0
45.4
身 長
168.0
166.0
体 重
61.0
60.1
B M I
22.0
21.8
日常の労作度1=軽い5=重い
1.9
2.2
日常の運動  している                
90%
96%

回数/週

3.9
3.6

時間

1.1
1.1
参加前一ケ月間の運動(日/週)
3.4
3.7
参加前一週間の運動度(1=少ない、3=多い)
1.6
1.7
朝食を食べた
90%
88%
スタート前に食べた
50% 
52% 
スタート前に飲んだ
70% 
68% 
熱中症のパンフレットを読んだ
30%
92%

熱中症に気を付けた

10%
96%
高低差を見た
70%
88%

気を付けた

10%
96%
帽子をかぶっていた
60%
60%
参加コース  5km
0
1
参加コース  10km
3
18
参加コース  20km
7
6
完走した
30%
100%
給水回数
4.0
4.6

取れなかったことがある

40%
12%
ペース(1=速い、3=遅い)
2.2
2.7
巨峰の丘マラソン参加回数 
2.3
2.2
年間マラソン参加回数
4.8
5.9
よい結果を意識する
60%
24%
困難を克服するタイプ
90%
68%
体力に自信がある
90%
80%
大会の時期はこのままでよい
66%
46%
途中での情報が必要
77%
56%

温度

40%
36%

湿度

20%
20%

高低差

50%
36%

ペース

10%
12%

B平成3年(第7回)から平成6年(第10回)までの気温・湿度の結果

 これが結果です。

大会

実施日

AM12の気温(度)

AM12の湿度(%)

天気模様

急患の数

入院の数

第8回(1992)

9/8

23.3

89

2(男2女0)

0(男0女0)

第8回(1992)

9/13

23.2

49

1(男1女0)

0(男0女0)

第9回(1993)

9/12

26.5

56

曇り時々晴

3(男3女0)

3(男3女0)

第10回(1994)

9/11

32.1

52

(Max34.5℃)

13(男11女2)

4(男3女1)

                (甲府の気温・湿度)          (甲府気象台 地上気象観測原簿より) 

C相対湿度からみたスポ−ツ競技の実施危険性(1991〜1994の大会)

相対湿度からみたスポーツ競技の実施危険性(Lamb,1978)

D考察・結論

考察:病院群・正常群の両群で身長・体重,運動量,スタート前の飲食,帽子の有 無などには有意の差が認められなかった.

 有意の差が認められたのは

 1)男女比,2)熱中症のパンフレット,3)高低差の図,4)参加コース,5)完定率,

 6)給水の失敗の有無,7)ペース,8)結果を意識,9)困難を克服,10)大会の時期,11)途中での情報 以上の11項目であった.

1)男女比は病院群で高く,倒れたのが男性に多かったことを示している.

 2)病院群で読んだのが3人,読んで気を付けたのが1人と,熱中症のパンフレットを読んだか否かが最大の差であった.参加者への事前の啓蒙活動を徹底することが  重要であることを示している.

 3)高低差の図は両群とも同じ程度に見ているが,病院群では気を付けようとしていない.より理解しやすい高低差の図の表示が必要ではないか.

 4)参加コースは病院群で20kmへの参加者が多い.

 5)完走率は当然病院群で低い.

 6)給水の回数にはあまり差がないが,病院群で冷水の失敗が多い.これが脱水を引き起こした原因とも考えられる.

 7)平均したぺースは病院群で速く,正常群で遅くなっている.

 8)結果を意識することや,9)困難を克服するという「がんばってしまう」性格が病院群では認められた.

11)病院群では、途中での情報があったら熱中症に気を付けられた。

 結論:

 以上の分析に基づき,巨峰の丘マラソン大会における熱中症予防の対策としては

    1)事前の参加者への熱中症教育を徹底する

    2)コースの説明を徹底する

    3)オーバーペースを予防する

    4)給水の失敗をなくす

    5)がんばらせない

 などの方策が考えられた.これらは重要な点であるが,しかし根本的な問題は,10)の残暑が厳しい9月の上旬という日時設定と,20kmのコースが5kmコースよりも遅く出発するという時間設定の問題ではないか?。

  この点を改善しないで今年と同じ轍を踏み,最悪の結果をきたすことがないよう関係者各位の自覚と努力を望みたい.

E以上の考察・結論を参考にして、巨峰の丘マラソン大会実行委員会に於いて内容が変更された。

 結論1では、マラソン大会の実施要項に「熱中症予防のために」を目立つように記載した。

   

  またスタート前に、参加者に村田医師が熱中症予防の注意を説明した。

 結論2では、マラソン大会の実施要項にコースの高低差を示し、注意を喚起した。  (第11回マラソン大会の実施要項から)

 結論3では、希望者はシャワーの下を通れるようにした。

 結論4では、給水所を増やした。

 結論5では、スタート前によく説明した。

最も重要であるスタートをもっと早い時間にする変更の提案については、、参加者が県外が多く、宿泊も考慮にしなければならないなどがあり難しく、また来年度に検討する事にしてで、今回は見合わせることになった。

 また、熱中症をもっと理解してもらうため、ホームページにも記載した。